日本酒の製造工程

日本酒をより身近に、より美味しく

杉玉:酒屋のシンボル

蔵元の新酒の出来上がりを伝える商標でもあり、お払いを受け年末年始前後に蔵元の正面に飾られます

本年の新酒が無事出来たことへの感謝と、これから仕込まれるお酒の安全醸造を願うものです

杉玉 当店手造りの杉玉

杉玉の色の変化は酒質の熟成を伝えてくれます

年始に飾られた頃の青々とした色は、新酒のフレッシュ感を表し

時と共に杉が枯れ茶色になり、その頃にはお酒も蔵の中で熟成し味が乗ってきます

フレッシュな躍動感と熟成した深み

これも日本酒の楽しみ、特徴の一つではないでしょうか

酒造りに関係の深い神社

全国各地には大神神社・出雲大社・松尾大社・梅宮大社を代表格として

酒造りに関係の深い神社が沢山あります

大神神社は円錐形をした三輪山(山全体がご神体)の山すそにあり

酒の神を祭る神社として古くから崇拝され

11月に行われる醸造安全祈願祭には多くの酒造かが集まります

この日神社から頂くのが三輪山の御神木の杉で作られた杉玉です

祭殿

日本酒は寒造り

寒い年の瀬から日本酒の造りが始まります

微生物の性質、モロミ管理等を経験で知り抜いた先人の知恵が生かされています

現在では空調設備・サーマルタンクの普及により、年中稼動できる蔵もありますが・・・・

醸造技術も発達し、発酵工程も科学的に解明されてきましたが

美味しい日本酒を造る微生物の働きに変わる技術(物質)はないようです

生命の営み、日本の気候を巧みに取り入れた先人の知恵により醸された日本酒が

私達の心を癒してくれるように思います

お酒は民族の文化財

長い年月を経て育まれた日本酒は民族の食生活の頂点に立つ文化財です

歴史の中ではぐくまれてきた本筋の日本酒に対し

間違いだらけの俗説、怪しげな日本酒風アルコール飲料などは

直ちに笑いのめし排除する知識を

日本酒を愛する方には持っていただきたくページを進めます

      <原料米>

優れた酒造りには良質米の確保から

土造りから始まり、気候的に敵地も限られ

栽培に手間がかかり収量も少なく

農家の高齢化・後継ぎの不在

良質の酒造好適米を如何に確保していくか、大きな課題が横たわります

       <精米>

江戸時代より、麹米だけに白米を使った「片白」に対し

原料米全量に白米を使った日本酒を「諸白」といい珍重され

精米の歩合によりお酒の品質が決まることが知られていました

米の外側にはビタミンやタンパク質の含有率が高く食するにはいいのですが

酒造りに於いては、酵母の働きを過剰に促進させ、雑味の多いお酒になってしまうため

精米により外側部分を削り取る精米の技術が競われてきました

精米歩合を上げると、原料の無駄が多く経済効率は悪くなりますが

お酒になったときのキメの細かさ、滑らかさになって現れます

経済効率をとるか品質を取るか難しい面もあります

      <精米歩合の推移>

・ 臼と杵 (足踏み式を含む)

・ 水車の利用 (江戸時代)

  六甲からの川の流れを利用し水車精白による灘酒の隆盛

・ 電気の普及

  横型精米機 (大正期)

  精米歩合80%がせいぜい、まだ未熟で米が焼けたり、砕けてしまう

  竪型精米機 (昭和)

  高精白が可能になり、現在のような滑らかな酒質のお酒が生まれます

ラベルの読み方

・ 吟醸酒: 精米歩合60%以上、規格内のアルコール添加

・ 純米酒: 精米歩合70%以上、米と水だけで造る、アル添不可

・ 純米吟醸: 精米歩合60%以上、米と水だけで造る、アル添不可

   規格があれば、その抜け穴を利用する輩がいます

   2級品の米を使い50%精白すればXX大吟譲

   米ぬか・くず米を使いXX純米酒

こういった不心得な蔵の酒の存在が日本酒の品位を落とし

「悪酔いする」などの俗語を残しています 「悪貨が良貨を駆逐する」

水~製麹工程

水は命

人間の新生児では体の80%が、大人でも60%が海水と相似の水分で占められています

昔から「水の良い所に良い酒ができる」と言いますように

酒造りに於いても水は重要で、日本酒の成分の80%が水であることからも明白です

洗米~出荷まで、お酒の量の30倍の水が必要で

水に溶け込んだ成分(カリウム・リン酸・マグネシウム)が麹菌や酵母の増殖

発酵を促し、日本酒の味わい形成に一役かっています

水の硬度(硬水・軟水)により酒質に違いが出る

湿気がもたらした日本食文化

・ 麹文化圏 日本を含め東洋 (高湿度地域)

・ 麦芽文化圏 西洋 (乾燥地域)

日本の平均湿度は64%

この湿度につき物のカビを積極的に利用して漬物や梅干・納豆など発酵食品が造られます

日本酒もカビのお世話になっています

日本酒造りのエリートとして選ばれたのが「黄麹菌」

蒸し米にこの黄麹菌を散布し、2昼夜かけてが造られます

この麹には米のデンプンを分解する酵素、タンパク質を分解する酵素など

多くの酵素を含み

糖化と共に旨味成分を形成します

 製造工程の中でも「一に麹」と言われるほど、麹の良し悪しにより酒質を左右します

 麹作りに使う米が、一ランク上の酒米・高製白米が用いられるのもその現われです

   種麹屋: 木炭の強いアルカリ性・殺菌力を利用して麹カビだけを純粋に培養

         現在のバイオ関連産業のような微生物を売る商売が平安時代末にはあったようです

   麹室: 麹の良し悪しがお酒の出来に大きく影響することから、麹室は蔵の財産・宝といえます

        温度や湿度の調整は空調装置によって出来ますが、その判断を下せるのは人の五感によります

麹が作りだす酵素には分析しきれないほどの数があり

日本酒に微妙な味わいを作り出してくれます

酵母~発酵

日本酒は酵母により造られる

太陽の恵によって得られた農作物を用い

酵母という微生物の働き(発酵)によって作られます

大の男を酔わせるお酒になるまでには、何千・何兆という数の酵母が、彼らの世界で言えば何千・何万世代もかけてお酒を造りだしています

櫂入れ

江戸時代まで日本酒造りは杜氏の勘・技術で進められていました

お酒にならず腐ることもよくあり「酒屋三代」と言われた位です

自然界に浮遊する酵母を巧みに取り込み、酒つくりをする技術は素晴らしい技ですが

危険も隣りあわせだったのです

清酒酵母の科学的な解明が成され

酒が僅か六ミクロンの酵母という微生物から造られることが解かったのは百年ほど前の事です

清酒酵母の発見、純粋培養により腐造もなくなり安全な酒造りができるようになります

   <酵母の発見・培養>

・ 明治28年  矢部博士による清酒酵母の発見・純粋培養

・ 明治37年  大蔵省醸造試験所設立

・ 明治39年  一号酵母: 桜正宗より分離

・ 明治40年  二号酵母: 月桂冠より分離

・ 昭和21年  七号酵母: 真澄より分離、酒化率がよく、現在一般酒の仕込みに利用されています

・ 昭和28年  九号酵母: 香露より分離、現在の吟醸酒造りに利用

・ 昭和53年  十号酵母: 東北地方のモロミより、吟醸酒造りに利用

     <酒母 (モト)>優良酵母を増殖培養したもの

酒母:読んで字のごとく、お酒の母

    仕込みに入る前に他の雑菌に負けない優良酵母を大量に作っておく工程 

    (江戸時代には「生モト造り」の技術が確立していました)

酒母造りは大きく分けて2種類の方法があります

  ・ 生モト系酒母

  ・ 速醸モト

      <生モト系酒母>  (生モト・山廃モト)

・ 生モト:微生物の性質を巧みに利用し江戸時代から継承されているつくり

      長い日数と労力・技術が必要、腐造の危険が伴うが

      お酒に押しの強さ、深い味わい、喉越しに訴えるものがあります

      (硝酸還元菌~乳酸菌の増殖により酸性状態を保ち有害なバクテリアを押さえ、酵母菌のみを増殖させる)

・ 山廃モト:原理は生モトと同じ

        生モト造りの前半で行われる人力による過酷な米をすりつぶす工程を

        米麹の酵素力に置き換えた造り(明治40年から)

       <速醸系酒母> 添加乳酸を利用 (速醸モト・高温糖化モト)

生モト系酒母造りの前半部分を、添加乳酸で補い製造期間を短く安全にした造り

携わる微生物も優良酵母だけなので、淡麗な酒質になる

吟醸酒の華やかさが生まれます

・ 速醸モト:明治43年醸造試験所技師・江田鎌治郎氏による考案

  乳酸菌の働きを省略し、添加乳酸で補う

  腐造の元が絶たれ、酒母工程の短縮(15日くらい)、ソフトタイプの日本酒になる

  現代清酒のほとんどが、この速醸造りを採用しています

・ 高温糖化モト:56度前後に加熱した仕込み水をもって糖化を促し乳酸を添加

           酵母を添加し酒母を作る(約1週間)

酒母の完成により、やっと酒造りの準備が出来たと考えていいと思います

これほどの長い時間と労力・技術を用いて作られるお酒は世界を探してもないでしょう

フランスのワイン、ベルギーのビールのように

日本酒は世界に誇れるお酒です

       別記

   個人的には、あまり書きたくない部類の造り

   酒母造りの工程を省略したもの、現代酵素科学を駆使し酵素製剤を使う「液化仕込み」

      書いていても腹が立つ・・・・ロマンも酒文化もあったものじゃない・・・

   ディスカンターの出現、よりやすい価格設定をするための擬似清酒

      <もろみ> アルコールの生成

いよいよアルコール発酵です

酒母の持つ乳酸と酵母を薄めないよう、3回に分けて水・蒸し米・麹を仕込みます(三段仕込み)

もろみタンクの中では麹による糖化と酵母による発酵が同時に行われます(平行複発酵)

   モロミの仕込み歩合

                 吟醸モロミ      普通酒モロミ

  モロミの経過温度      10度以下       15度前後

  仕込み米の量        750キログラム     3000キログラム

  生成日数           25日           17日

吟醸モロミは経過温度を低く抑え、ゆっくり発酵させます

高温での発酵は生成日数が短く済むのですが、雑味が出てしまいます

吟醸酒は高価な酒造好適米を用い、高精白され原料代が高くつくだけでなく

生成日数も長く、小仕込のためお酒の量も少なく

普通酒に比べ高価ですが・・・納得いただけるかと

       別記

   アル添:本来は酒質を綺麗にする為に用いられますが、低価格酒には増量目的

   ドレン:吟醸酒の綺麗な香りは発酵工程の中で生まれるのですが

       低価格酒にみられる香りの添加

   三増酒:ブドウ糖やコハク酸のような甘味・酸味を持った副原料を添加し、味付け・増量したもの

安いものには、それなりの訳があるようです

これらも同じ日本酒の分類に入れていいものでしょうか・・・・

上槽~出荷

<上槽(じょうそう)> モロミを搾り液体(清酒)と固体(酒粕)に分ける

搾り方の色々

 ・ 吊り:品評会・フリーラン等、最上級クラスのお酒に用いる搾り法

      モロミを小袋に入れ自然に滴る部分のみを瓶詰め

 ・ 槽(ふね)しぼり:槽にモロミを入れた酒袋を積み上げ搾る方法

             お酒に優しく良質な酒質が得られます

       ・荒走:酒袋を積み上げていく最中に流れ出す白濁した部分

           アルコール度が低く、味が綺麗

       ・中汲み:酒袋を積み上げて自重圧で流れ出る部分

       ・押し切り:槽の上から圧力をかけ搾り出される部分

          槽しぼり

・ ヤブタ:労力と時間を省略した連続式圧搾機

      自由に圧力を調整でき酒化率が良い、大量生産酒向き

          ヤブタ

    粕歩合:モロミを清酒と酒粕に分離した時の歩合

         強い圧力を加えるとモロミから多くの清酒を搾り出せますが、雑味も増えます

     <おり引き>

搾ったばかりの清酒にはデンプン粒子や酵母などが混濁しているので

タンクで10日ほど静置して、おりを沈殿させます

     <濾過>

おり引き後の清酒には、まだ細かい粒子が残っているため濾過が行われます

 活性炭濾過:脱色・雑味・異臭の除去

         異常な濾過は清酒を薄っぺらなものにしてしまいます

         逆に言えば、少々劣悪なものもそれなりに飲める物に

日本酒は無色透明なものと思っておられる方が多いですが

無濾過のお酒に見られるよう本来は、やや黄色みを帯びています

      <火入れ>

濾過・精透した生酒を60度に加温し、殺菌、生酒に残っている酵素を死活させます

       <貯蔵>

火入れ殺菌の済んだ原酒の多くは秋口まで貯蔵・熟成され

酒質が丸く飲みやすくなります

       <出荷>

年末の仕込から1年近くを経てやっと日本酒としての出荷です

貯蔵熟成された原酒(19度くらい)に割り水をし15度規格まで調整し

再度加熱殺菌を施し出荷されます

  * 最近では冷蔵技術や運送・保管大勢も整備され 

     全く火入れを行わない「生酒」や割り水を施さない「原酒」もございます

長い年月と技術を持って造られる日本酒

全国には1400社の蔵があり、大量生産・低価格酒に走る蔵もありますが

地元に根を下ろし、気候・風土に根付いた本来の地酒造りを継承している蔵も存在します

人にも様々な個性があるように、蔵の味を守り切磋琢磨されている地酒

一部の有名酒のみならず、目を向けて頂き新たな味・感動を発見していただきたく思います。


3代目高間一夫です。

冬の到来を迎え、暖かな食卓をお囲みください。お酒が皆様を癒し楽しんで頂けるよう願っています。

「ここでしか出会えない酒がある」

嗜好品である以上 私の選んだ酒がすべて受け入れられるわけではないですが人の温もりを感じるお酒を発掘し 皆様にお伝えするのが私の役目です。日本酒の個性と深み 旨いと感じさせてくれる酒 癒される酒。私を信じ車で30分以上かけ来て下さるお客様がほとんどです。

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